やさしい前立腺がんのお話

1. 前立腺って何?

前立腺は膀胱の下にあるクルミ大の臓器で、尿道の一部になっています。おもに精液(精子は精巣で作られます)を作っています。

2. 前立腺肥大症と前立腺がんの違いは?

50歳を過ぎたころから前立腺が大きくなる傾向にあります。これを前立腺肥大と言います。前立腺が肥大すると、尿道が狭くなり尿が出にくくなったり残尿感や頻尿など多彩な症状が出てきます。これに対し前立腺がんは前立腺の一部の細胞・組織が癌化した状態です。前立腺肥大が前立腺がんに変化するわけではありません。ただしどちらも50歳過ぎから罹りやすくなるので、前立腺肥大症と前立腺がんが同時に起きることもよくあります。

3. 前立腺がんを見つけるには?

最も簡単な方法は採血でPSAの値をはかることです。なお前立腺がんだけで上昇する腫瘍マーカーですので、他のがんでは上昇しません。50歳代では3.0ng/ml以上、60歳代では4.0ng/ml以上でがんの可能性が高まります。また血縁のある家族に前立腺がんにかかった方がいらっしゃる場合は、前立腺がんにかかるリスクが高まります。

国内では食生活の変化などいろいろな要因により罹患率が上昇し、2021年現在では日本人男性がかかるがんの第1位となっています。

自治体によって前立腺癌検診が行われていますので是非利用しましょう。

当院では港区前立腺癌検診を受けることができます。

4. 前立腺がんの診断法は?

採血でPSA値に異常を認めたら直腸診やMRI検査などがあります。ただし直腸診はある程度進行した癌でないと分かりにくく、またMRI検査で必ず癌が描出されるわけではありません。

確定診断には前立腺針生検を行い前立腺の組織を採取し顕微鏡で調べる必要があります。麻酔をかけずに行う施設もありますが、当院では麻酔科医による麻酔でしっかり痛みを抑えて検査を行います。針を刺す方法として直腸粘膜をさす方法と会陰部皮膚をさす方法とありますが、当院では細菌感染による前立腺炎のリスクを減らすため経会陰的に生検を行っております。

5. 前立腺がんと診断されたら?

生検で前立腺がんと確定診断されたら、CT検査、骨シンチグラフィー検査で転移の有無を調べて、ステージ評価を行います。ステージを簡単に説明するとこのようになります。

StageⅠ 前立腺内にとどまっている段階
 
画像や触診では診断できない検診や前立腺肥大の手術などで偶然見つかったがん
StageI
StageⅡ 前立腺内にとどまっている段階 StageII
StageⅢ 精嚢や被膜外にがん細胞が浸潤した状態 StageIII
StageⅣ 前立腺周囲に浸潤したり、骨、内臓などに癌細胞が散らばった状態 StageIV

6. 前立腺がんの治療法

治療法はステージ、グリソンスコアの他、患者さんの年齢や全身状態、既往歴などによって異なります。グリソンスコアは病理検査で判定する癌の顔つき(ゆっくり進行、進行しやすい、転移しやすいなど)を示します。スコアが高い方が悪性度が高くなります。

患者さんとよく話し合い最適な治療法を選びます。

(1)前立腺に限局した早期のがん StageⅠ,Ⅱ

監視療法

StageⅠでグリソンスコアが低く生検で陽性の割合が低い場合、PSA値のフォローを継続し治療開始のタイミングを見計らいます。

メリット

治療による侵襲、副作用がありません。

デメリット

何度か前立腺針生検を行うことになります。

手術療法 ロボット支援前立腺全摘術

全身状態が良好な患者さんに行います。現在はロボット手術が主流になり従来の開腹手術に比べて、傷が小さく、侵襲や出血も少なく、尿失禁などの合併症が減り当院で最も推奨する治療法です。

メリット

完全治癒が目指せます。

デメリット

尿失禁、男性機能障害。ただし開腹手術に比べ尿失禁のリスクは少なくなり、神経温存術により男性機能障害も軽減する選択もあります。

放射線治療

前立腺に集中して照射する強度変調放射線治療IMRTが主流です。後述のホルモン治療を併用することが多いです。当院ではIMRTは行っておりません。

メリット

合併症などで手術を受けられない患者さんでも可能です。

デメリット

直腸炎、膀胱出血、二次性膀胱がん、残存する前立腺による排尿障害、血尿など。合併症は治療後何年かたってから出現することがあります。

ホルモン治療

高齢であったり、大きな合併症などにより外科的治療を受けられないような患者さんに行います。

前立腺がんは男性ホルモンであるテストステロンを餌にして成長します。そこで男性ホルモンを除去または作用できなくして前立腺がんの増殖を抑えます。

<ホルモン治療の方法>

去勢術 男性ホルモンの95 %を産生している精巣(睾丸)を両側とも手術でとる方法です。寝たきりなど通院が困難な状態の患者さんに適した方法です。

注射薬 男性ホルモンを作ることができなくなる注射です。国内でよく使われる製剤にはリュープリン® 、ゾラデックス® 、ゴナックス®があります。製剤によって月1回の注射、3か月に1回、6か月に1回と異なります。

内服薬 男性ホルモンが作用するのをブロックする薬で毎日服用します。国内で現在よく使われる第一世代ホルモン治療薬にはカソデックス® (ビカルタミド)があります。

ホルモン治療は比較的副作用が少ない治療ですが、数年たつと効果がなくなり、がんが再び増殖する去勢抵抗性前立腺がんという状態になることがあります。

⇒ (3)去勢抵抗性前立腺がん の項へ

(2)進行したがん Stage Ⅳ

前立腺がんは初期は症状がありませんので、すでに転移がある状態で見つかることも稀ではありません。典型的な例は、腰痛で整形外科を受診し精密検査を行ったら前立腺癌の骨転移であったというものです。この場合、根治することは困難で予後も厳しいことになりますが、近年、次々に新しい薬が登場し治療成績が向上してきています。

ホルモン治療  新規ホルモン治療薬

前項で述べた男性ホルモンを除去する去勢術や注射薬が必須になります。

内服薬として、副作用の少ない第一世代ホルモン治療薬または、2014年より国内で承認されたより効果の強い第二世代ホルモン治療薬(ザイティガ®、イクスタンジ® 、アーリーダ® )を開始します。

抗がん剤治療

2021年よりハイリスク前立腺がんの患者さんの初期治療に抗がん剤(ドセタキセル、タキソテール® )を使用することが保険で承認されました。3週間に1回、抗がん剤の点滴を行います。

骨修飾療

骨転移に対して毎月皮下注射する骨修飾薬(ランマーク® など)があります。

これらの治療で一旦、がんが縮小しPSAが低下しますが、その後、薬が効かなくなる去勢抵抗性前立腺がんという状態になる可能性が少なくありません。

⇒ (3)去勢抵抗性前立腺がん の項へ

(3)去勢抵抗性前立腺がん

ホルモン治療を行っている途中で、ホルモン治療が効かなくなった状態を去勢抵抗性前立腺がんと呼びます。医師と患者さん、ご家族が副作用によるデメリットや生活の質などを話合いながら治療法を選択していく必要があります。

第二世代ホルモン治療薬

ザイティガ®、イクスタンジ® 、アーリーダ®、ニュベクオ® (転移がない場合)があります。一剤目の効果がなくなったら、ホルモン治療薬の種類を変えてみます。

抗がん剤

まずはドセタキセル® (タキソテール® )を3週間に1回注射します。効果がなくなったらジェブタナ® に変更します。

骨修飾療

骨転移に対して毎月皮下注射する骨修飾薬(ランマーク® など)があります。

核医学治療 塩化ラジウム223 (ゾーフィゴ®)

ゾーフィゴ®という薬を月1回、6か月注射する外来治療です。骨の転移部位にだけ作用します。実施できる施設が限られます。当院で受けることができます。

放射線治療

前立腺または転移部位に症状を緩和する目的で放射線治療を行うこともあります。泌尿器科医、放射線科医とによる検討が必要です。当院では適応がある患者さんに行っています。

個別化治療 リムパーザ®

2021年に保険が承認されました。採血または腫瘍組織の遺伝子を調べ、BRCA遺伝子変異陽性の場合は、リムパーザ®という治療の適応になります。

最後に

前立腺癌がんは、近年目覚ましく治療法が進歩した分野です。がんの特殊性から治療法の選択肢も様々なため、すべての病院がすべての治療法を網羅している訳ではありません。

当科は前立腺がんを専門とした医師により開設されたため、前立腺がん研究、前立腺癌のロボット手術、進行性または去勢抵抗性前立腺がんの薬剤治療に力を入れております。セカンドオピニオン外来も開いておりますのでお気軽にご相談ください。

文責 高橋さゆり 2021年4月

*このコラムは一般の患者さん、ご家族様向けに書き下ろしたもので、医学的正確性よりも分かりやすさに重点をおいております。

ご寄付のお願い

東京大学医科研病院泌尿器科では前立腺癌の治療薬開発に向けて研究を行っております。

ご寄付には税法上の優遇がございます。泌尿器科医師またはtodaiikaken[ど]uro[あ]gmail[ど]com([あ] を @ に,[ど] を . に変えてください。)までご連絡いただければ幸いです。

詳細:https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/relations/donation.html

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